本紹介 -『民族という名の宗教−人をまとめる原理・排除する原理−』

 タイトルに掲げた本をようやく読み終わりましたので、少し覚書しておきたいと思います。私自身に世界史の知識が薄く、今ひとつわかったようなわからないような部分もありましたので、不正確な部分があれば申し訳ないです。

 読んだのは以下の本です。

本の内容で、「へー」と思ったことまとめ
  • 人間は他の動物に比べ圧倒的に弱いことから、オス個人同士の争いが起こりづらく、その結果集団を大きくすることができたのではないか。
  • 初期の集団においては、優れた人間が指導者となっていた。指導者が老い、衰えれば当然指導者の立場を巡って争いが起きる。しかし、いちいち内部で争っていては混乱するので、世襲制に(⇨血の信仰へ繋がっていく)。
  • さらに集団が巨大化し、帝国と呼べる規模になると、一部の部族を依枯贔屓するような血の信仰では人々をまとめられなくなる。そのニーズから、キリスト教イスラム教、仏教などの世界宗教と呼ばれる宗教が急速に広まる(⇨しばらく宗教が力を持つ時代へ)。
  • 産業革命により、労働者や市場の確保が重要視されたことにより、大きな集団を作る必要が出てくる。ここで、かつては別の部族、国として存在していた集団をまとめ、ひとつにするイデオロギーが必要となる。そのために出てきたのが「国民国家」や「同じ民族」というイデオロギー
  • 産業革命によって力をつけたイギリスやフランスに飲み込まれないためにも、周辺国はこぞってまとまり独立し、主に「同じ言葉を話す」もの同士として団結しようとした。
  • ユーゴスラビアも、「同じ南スラブ語を話す」という理由でまとまり、「ユーゴスラビア人」としてのアイデンティティを持とうとしたが、言葉も似ていると言っても相違点も多く、むしろ違いの方が目についてしまった⇨内部分裂
  • 「同じユーゴスラビア人」としてまとまるというナショナリズムは失敗したので、社会主義という違うイデオロギーによって団結しようとした。

このあたりまでが、ユーゴスラビアにつながるお話です。

ユダヤ人に関する歴史が以下⇩

  • ユダヤ人はエルサレムの近くで定住していた集団だが、何らかの理由で移動し、追われることに。
  • どの地域に行っても迫害されてしまい、長い間苦しんだ。
  • 18世紀後半、メンデルスゾーンが「ユダヤ人が迫害されてしまうのは、ユダヤ人がユダヤ人らしさを強調していることにも問題があるのではないか」と唱え、地域に同化していくことを提案。ドイツ的教育、ドイツ人との交際を奨励し、多くの学者や芸術家を輩出するに至った。
  • 産業革命からの流れによって、国民国家の考え方が出てくる。国民国家は、部族関係なく国民としてひとつに纏まろうとする動きだったので、当時のユダヤ人的には大チャンス。有能ならば認めてもらえるので、張り切った。
  • 社会の中心に多くのユダヤ人が入ってきたことから、社会がユダヤ人に乗っ取られてしまうのではないかという不安や妬みが噴出。反ユダヤの流れに
  • 国民を民族と言い換え、「ユダヤ人は同じ民族にはなれない」という言い方をすることで、ユダヤ人を排除。ユダヤ人内でも、急激な同化にアイデンティティの喪失を覚え、民族主義的に。
  • ポグロムなどのユダヤ人虐殺が起こってしまう。
  • 国民国家というイデオロギーではうまくまとまれなかったので、「民衆の殺し合いに反対」し、「ユダヤ人を縛るユダヤ教から、ユダヤ人を解放しよう」としてくれて、「国境を超えて、労働者をまとめようとしてくれる」社会主義に賛同するユダヤ人が多くなった。一方で、むしろユダヤ人としてのアイデンティティを強め、神話を用いて、ユダヤ人の国に帰ろうとしたのがシオニズム

 

感想

 今、世界が国境を超えてまとまろうとしたり、自国の力を強めようとしたり、様々な思惑が見え隠れして、もう何を信じていいのか、今後どうなっていってしまうのかわからなくて不安に感じることが多々あります。

 そういう中で、これまでにもあった「まとまろうとする力」「排除しようとする力」を知って学ぶことは、非常に意義があると感じました。知ったところで何ができるわけではないのですが、世間で起こる出来事を、渦中からオロオロして見つめるだけというのは消耗してしまいます。メタ的な立場から「今こうなっているのかもしれない」と思えるのは、精神の安定の上でも良いことなのかもしれません。

 高校で学んだはずなのに、今ほぼすべて忘れている世界史をもう一度勉強したいと思える内容でした。

 

こんなひとにおすすめ
  • 世界をひとつにまとめようとしてきた歴史に興味がある人
  • 人の集団形成に興味がある人
  • ユーゴスラビアについてあんまり知らないけど、どういう国なのかごく簡単に知りたい人
  • ユダヤ人についてあんまり知らないけど、どんな歴史を歩んできているのかごく簡単に知りたい人
  • 社会主義の良かった点を論じる立場のものを読みたい人

易しい言葉の対話形式なので、読むのに辛いと感じることはなかったです!

おそらく、歴史としてはかなりさわりの部分だと思うので、ユーゴスラビアユダヤ人についてしっかり学びたい! という人には不向きかもしれません。